だんだんな気持ちで淡々と暮らす

淡々とした生活の記録

【親父と僕の話⑨】『飲んだくれのキューピット』にはなれなかった

 

 親父の話をするのに、酒癖のことははずせない。印象に残っているエピソードをおひとつ。これは、もう僕が大人になってからの出来事である。

 

 

はじまり、はじまり~。

 

 

 人生紆余曲折あり、親父は船を買い、漁師をしていた。僕が高校生くらいの時からだったと思う。あれも突然だった。

「船が安かったけん買ったわ。漁師やーことにしたけん。」

方言でちょっと意味が分かりにくい方のために標準語に、

「船が安かったから買ったよ。漁師をすることにしたよ。」

うん、やっぱり思った通りだ。標準語にしたところで意味分からん。

親父は漁師の経験はない。まあ経験があろうがなかろうが、船って安かったからって、じゃあ買っとくかってものではない。ニンジンやジャガイモではないのだから。やっぱり規格外の金銭感覚。でもまあそれは置いておこう。

 

 

親父の場合、カツオの一本釣りみたいな大勢で漁をするのはなく、一人で漁をするタイプだった。だから、漁するのも休むのも自分の裁量しだい。つまり、その裁量が間違った方向に行くと、いつでもどこでもお酒が飲めるってことになる。だいたい、年の半分は、お酒を飲むことに時間を使っていた。案の定、間違えた。

 

お金を持たせず、家にお酒を置いていないにもかかわらず、いつのまにか泥酔している。隙をみては、出掛け、酒の匂いがする場所ならどこにでもいった。その嗅覚を別の何か使っていれば、天下をとっていたかもしれない。残念だ。

 

 

 

 

あの日もそうだった。親父が家にいない。数日前から、漁にもでていない。まあ、どこかで飲んでいるのだろう。と気にもしなかった。放置だ。すると、電話がかかってきた。僕は、電話と、とことん相性が悪いことは前にも書いた。

 

pinewood13.hatenablog.com

 

相手「〇〇さん(親父)のお宅でしょうか?」

僕「はい、そうです」

相手「S病院の者なんですけど、〇〇さん(親父)が救急車でこちらに搬送されたんですけど。問題ないようなので、お迎えに来れますか?」

僕「えっ、そうなんですか!すいません。すぐに行きます。」

予想外のことに驚いた。

相手「どれくらいで、来れますか?」

僕「10分もあれば行けます」

相手「休日の外来入り口のところで待ってますので」

やっぱり、電話とは相性最悪。僕がでると、ロクナコトガナイ。

 

どうも、親父は酔いつぶれ道端で寝ており、親切な通りすがりの方が救急車を呼んでくれたようだった。捨てる神あれば、拾う神あり。

 

 

とにかくS病院に向けて、すぐに車を走らせた。酔いつぶれて、誰かに家まで送ってもらうことはあっても、病院に搬送されるってことは今までなかった。行くとこまで行ったな。

 

病院の駐車場に着くと、休日外来入り口に、お医者さん、看護師、そして車いすに座らされている男性が遠くに見えた。もちろん、座らされているのは親父である。

 

車を降り、急いで入り口に向かった。遠目に見ても、親父が酔っ払っているのが分かった。参ったなと思いながら、病院の先生のほうに目を向けると、「あっ」、さらに参ったことが。先生のほうから、ちょっと驚いた顔で僕に向かって、

 

「えっ、お父さん?」

 

と言った。まあ、確かに似ていないから、もっともな感想である。でも、この場面でお医者さんが患者の家族に言うセリフとしては、独特だ。一般的には、「〇〇さん(親父)のご家族の方ですね?」みたいに確認するだろう。「えっ、お父さん?」ってのは、有りか無しかって言われたら、間違いなく、有り。なんだな~これが。

 

なんと、たまたま当直していた先生が高校の同級生だったのだ。しかも、女子。同じクラスになったことはないが、お互いよく知っていた。たぶん、その子(先生)にとっては、親父が「入れ墨つきの体を持った、アル中男」という、あまりお目にかからないタイプの人間だったこともあり、苗字(市内に1軒)が同じでも僕とつながらなかったのだろう。

 

そんなちょっと、やや気まず~い状況におかまいなく、酔っ払った親父は僕にむかって、「お~~~、〇っちゃん」とご機嫌な様子で声を掛けてくる。今すぐ、その口をふさぎたい衝動を、僕は必至で抑えた。

 

その同級生であり先生は、苦笑いをしながらも、親父の体の状況を説明してくれた。さすがプロ。一通り、説明が終わると、僕はお礼を言って頭を下げた。親父は、説明を聞いている間も、「はぁ~~、歩いて帰れーかいな」とか、「ここはどこだぁ~?」など、ご機嫌にしゃべり続けている。やっぱり、猿ぐつわでも用意しておくべきだった。

 

そして、僕たちは、最後に共通の友人の話を軽くして、「じゃあ、また」と別れた。まあ、それ以後、会ってはいない。

 

 

しかし、お医者さんなんて山のようにいて、逆に同級生で医者になった人なんて数えるほどしかいないのに、その場面で会っちゃうんだな~。世間は狭いもんだ。と思わずにいられなかった。

 

 

 

今回は数ある親父の酒癖エピソードの中でも、偶然の再会というスパイスが効いたものだ。僕には、ちょっとスパイス効きすぎたけどさ、フフフ。

でも、これで、この同級生と恋にでも落ちていたなら、『飲んだくれのキューピットが僕の天使を連れてきた』と、韓流映画にでもなったのかもしれないよな~。いや、なる訳ないよな~。

 

 

 

本当に、こんなどうでもいい個人的な話を最後まで読んでいただきありがとうございました。

みなさま、くれぐれもお酒の飲み過ぎには注意してくださいませ。僕も含めて(笑)