だんだんな気持ちで淡々と暮らす

淡々とした生活の記録

職務質問された時の模範解答を僕は持っていない

 

親父のことばかり書いていたら、不思議なものでいろいろなことを思い出す。

それらも、忘れないうちに書いておこう。じいさんになって、記憶が薄れる前に。

 

 

僕って、ぱっと見、特に悪そうじゃないのだけど、良く職務質問されていた。たぶん、悪そうじゃないけど、怪しそうではあるのだろう。

 

その中の1つである「夏の夜の職務質問」っての書きましょう。

 

 

 

では、始まり、はじまりーー。

 

 

オクサンとは、出会って半年後から同棲を始めた。

実は、その頃、僕は今の職業である作業療法士の専門学校に通っていた。34歳、遅いデビュー。オクサンは普通の会社員。

 

専門学校最後の夏、オクサンが出張に行って留守の時があった。しかも、出張先がロシアのウラジオストック

僕は最終学年ということもあり、病院で研修する日々が続いていた。

作業療法士の研修って思っている以上にハードで、しっかり睡眠を取れないくらい課題を出される。まさに修行。

 

 

そう、オクサンは出張中、僕は研修中に、その事件は起きた。

 

その夜も、提出しなければならないレポートを追われていた。時間は、たぶん午前0時は回っていたと思う。ちょっと気分転換にコンビニに夜食でも買いに行こうとチャリを走らせた。

 

夜の歩道でチャリを走らせていると、

「ちょっと、止まって」

と懐中電灯を持ったお巡りさんが2人、僕の前に立ちふさがった。

特に、後ろめたいことはなかったので、軽い気持ちでチャリを停めた。

 

警察「すいません。夜間の自転車の窃盗が多発しているもので、確認させてください」

僕「いいですよ」

警察「この自転車は、ご本人様のものですか?」

 

あっ、まずい。

実は、この時、まだ結婚する前のオクサンの自転車に乗っていたのだ。

 

 

 僕「これは、一緒に暮らしている彼女のものなんです」

僕は正直に答えた、でも、その言葉で、警察の表情が一気に厳しさを増す。

警察「そうですか、その彼女とは連絡がとれます?」

そうくるよね。分かってた。

そりゃ、誰だってそう訊ねるよ。怪しい奴がする言い訳だもの。

こうなったら、正直に話すのがベストと職務質問慣れした僕は判断。 

 

僕「いやー、いま出張中で連絡とれないんです」

すぐに自分の正直さを後悔した。これって、完全に自転車泥棒の言い訳の展開。お巡りさんの表情もさらに厳しくなる。誰が言ったのよ、正直に話すのがベストだ!って。僕か。

警察「・・・、だって、携帯持ってるでしょ?」

と詰問口調。仰る通り、もう電話は1人1台の時代。どこでも、誰とでもつながれる時代。

 

僕「それがー、ウラジオストックにいるんですよ」

真実は、時にとても嘘っぽくなることもある。しかし、

警察「ウラジオストックって、あのロシア極東に位置し、アジアとヨーロッパの文化が入り混じったエキゾチックな都市のことですか。確か、あの街はシベリア鉄道の始まりの駅があるんですよね。実はわたしの従妹が住んでるんですよ。いい街ですよね。ウラジオストックにいるならしょうがないなー、それは連絡は難しいですね。じゃあ、もう行っていいですよ。」

 

なんて展開になる訳がなく。

 

警察「・・・ウラジオストックですかー・・・・」

僕「そう、ウラジオストックなんです.......」

 

僕は、自分で言いながら、おかしくなった。

じゃっかん、お巡りさんも半笑いしてたような気がした。

信じていない顔の見本がそこにあった。

 

この時点で、僕は自転車の窃盗犯として、かなりクロに近いグレーとなったのか。

それとも、ウラジオストックというワードを出してまで嘘つく奴はいないだろうと、かなりシロに近いグレーになったのかは定かではない。また、どうでもいい。

 

でも、僕自身、一片の疚しさもなかったので堂々としたものだった。

やっぱり正直者は得をする。まだしていないけど。

 

すると、

 

 警察「この自転車、防犯番号ありますか?」

さすがプロ。アマがあるかどうかは知らないが。いやいやないから。

そうか、その手があったか。というか、それが普通だろう。 

それが分かれば持ち主を確認できる。

僕は自転車を降りて防犯番号シールを必死で探した。警察の人も一緒に探してくれた。

 

警察「あっ、ありました。これが防犯番号です」

と、お宝発見したようなお巡りさん。

ちょっと探しにくいところに貼ってある防犯番号を教えてくれた。

オクサンの名前を伝え、お巡りさんが本部に所有者の確認をとってくれた。

 

確認がとれ、無事、僕は解放された。

 

警察「ご協力ありがとうございました。気を付けて運転して帰ってください」

僕「あっ、どうも」

 

と言って別れた。

 

あの夏の夜、僕は正直に「彼女はウラジオストックに出張中です」と言った。

あれは正しかったのだろうか?

嘘でもニューヨークとかロンドンとかって言ったほうが、お巡りさんも分かりやすかったのではないだろうか?

いや、たぶんそれは、本当に誰にとってもどうでも良いことだ。

はやく、誰かの役にたちたいよー。

 

 

以上、「夏の夜の職務質問」でした。

最後まで、読んでくれたみなさま、感謝です。