だんだんな気持ちで淡々と暮らす

淡々とした生活の記録

青春のど真ん中にいた友達の話

青春時代。その青さゆえに、時にぼくらはとても戯曲的になることがある。戯曲的とは、「自然にでたものではなく、意識してつくられた」って意味らしい。

 

高校時代の僕は人のことを、今風に言えばイジル、のが大好きであった。それは、一種の僕にとっての盾のようなもので、イジラれる前にイジルことで自分のイジラれる弱さから身を守っていたのだ。なんとも分かりにくい表現だこと。

50歳を目前に控えた今では、イジラれることに快感を感じらるようになった。もっと、俺をイジってくれ~~って思うほどに。なぜ、ティーンの頃(今どき言わないか)ってイジラれることを恐れていたのだろう。誰か教えてほしい。

 

高校時代、ジローというあだ名の友達がいた。頑張って思い出そうとするが、彼がなぜジローと呼ばれていたのか思い出せない。本名はまったくジローに関係ないのに。別の友達に清水という苗字だったから、ジローというあだ名をつけたことはあったが、彼はなぜジローを命名されたのだろう。不思議だ。

ジローくんは、ちょっと太めでいつもニコニコしている男子だった。みんなで歩いていると、一人息切れし汗をかいているような感じの。クラスに必ずいるような。

 

高校2年生の頃、一部の男子のあいだで大ブームを巻き起こしたのが「大富豪」であった。トランプゲームだ。朝は始業の1時間近く前には教室に入り、男子4~5人で机を囲んでいた。ジローくんも僕もその男子の一人であった。今思えば、早起きして「大富豪」やっているなんて、とっても健全で豊かな時間なんでしょう。

たかが「大富豪」なのだが、始まりだすと、その場は熱を帯びだす。ちょっとした罵り合うような言動も時には生まれる(その中心はわたくしなのであるが・・・)

そう、あの日もそうだった。その日はジローくんが調子良く勝っていた。彼はとても穏やかな平和主義であったので、「よっしゃー、俺がナンバー1じゃ、ボケども」なんてことを口にすることはなく、「今日はついているね、あははは」と謙虚界のカリスマだった。そんなジローくんに対して、「蛇のようにネッチコイ」と呼ばれていた僕は舌をペロペロだしながらグチグチと愚痴をぶつけだした。どんなことを言っていたかは覚えていないが、よっぽどなことを言っていたのだろう。

いつも通り、ジローくんは笑いながら、そんな僕の心ない言葉を聞き流していた。のであるが、突然、持っていたトランプを机の上にバシンと投げつけ、「もう止めた」と叫んだ。僕は動揺をした。完全に僕のグチグチ愚痴に怒っているのは分かっていたからだ。でも、あえて、冷めた口調でジローくんに「何、怒ってんの?」と。するとジローくんは、僕の胸に人差し指を刺して、こう言ったのだ。

 

「お前の胸に聞いてみろ!!!」

 

と。

後にも先にもこんなに青春な言葉を言われたことがない。そう、あの頃、間違いなく青春のど真ん中にジローくんも僕もいたのだ

 

その日、ジローくんは調子が悪いと早退してしまった。申し訳ないと感じた僕は、謝ろうと、学校帰りに彼の家に向かった。道路に面した彼の部屋の窓は空いていた。僕はピンポンも鳴らさず、彼の部屋に向かった。近づくにつれ、何か叫んでいるような声が聞こえてくる。僕は恐る恐る、彼の部屋を覗いた。すると、そこには尾崎豊の「17歳の地図」を派手なアクションをつけながら熱唱するジローくんがいた。言うまでもなく、見なかったことにして僕は彼の部屋を後にした。。。いまさらジローであるが、あの時はごめんね。

 

ジローくんはどんな誰よりも青春のど真ん中にいたというお話でした。